この記事の著者
T.A.|ITコーディネータ(テクノア ブランディング戦略室)
医療ITを専門としながら、製造業・ECサイトまでWebマーケティングを軸に多業種のシステム支援に携わってきたITコーディネータ。制度と現場の両面から医療機関の課題解決を支援しています。
◼️この記事の要点
- 令和8年度の診療報酬改定は、令和6年度(2024年)から定着した「6月1日施行」の制度に基づいており、システムベンダーや医療機関の準備負担を軽減するための変更です
- 今回の改定は賃上げ・物価対応・医療DX推進・生活習慣病管理の強化という4つの柱で構成されており、予防医療の重要性がこれまで以上に高まる内容となっています
- 健診業務は改定の直接対象ではありませんが、生活習慣病管理や医療DXの動向を踏まえると、健診データの「活用される仕組み」を整えておくことが、医療機関全体の対応力につながります
なぜ「6月施行」なのか――2024年から変わった新ルール
診療報酬の改定は、長らく「4月1日施行」が慣例でした。厚生労働省が前年末に改定率を決定し、2月に内容を告示して、4月から新点数が適用されるというサイクルが続いてきました。
ところが令和6年度(2024年)から、このスケジュールが大きく変わりました。薬価の改定は引き続き4月1日に施行されるものの、診療報酬本体(医科・歯科・調剤)の改定は6月1日に施行される体制へと移行したのです。令和8年度(2026年)改定も、この枠組みを踏襲しています。
2024年から変わった診療報酬改定の施行時期
変更の背景にあるのは、現場の準備負担の問題です。従来の4月施行では、2月の告示から施行まで実質2か月しかありませんでした。この短期間に電子カルテやレセコンのシステム改修、施設基準の届出、スタッフへの周知といった作業が集中し、特にシステムベンダーや医療機関の事務担当者に大きな負荷がかかっていました。
この課題を受けて、2023年に中央社会保険医療協議会(中医協)総会での議論を経て、6月施行への移行が了承されました。告示から施行まで約4か月の準備期間を確保できるこの仕組みは、医療DX推進という国の方針とも連動しています。令和6年度から始まったこのルールが令和8年度でも継続されており、今後の標準的なスケジュールとして定着していく見通しです。
> 参考:令和8年度診療報酬改定について(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67729.html
令和8年度改定、4つの柱を整理する
今回の改定全体像を把握するうえで、厚生労働省が示す4つの基本的視点を確認しておきましょう。
| 改定の柱 | 主な内容 |
| ①賃上げ・物価対応 | ベースアップ評価料の拡充(R8・R9年度でそれぞれ3.2%のベア目標)、物価対応料の新設、食費・光熱水費基準額の引上げ |
| ②2040年を見据えた機能分化 | かかりつけ医機能の強化、地域包括ケアシステムの推進、在宅医療・訪問看護の拡充 |
| ③安心・安全で質の高い医療の推進 | 医療DX・ICT活用体制の評価、生活習慣病管理の質的強化 |
| ④効率化・適正化 | 後発医薬品の使用促進、医療保険制度の持続可能性の確保 |
診療報酬の改定率は、令和8年度と令和9年度の2年度平均で+3.09%(令和8年度単年は+2.41%)とされています。改定率が大きくプラスになった背景には、医療従事者の賃上げと、令和6年度改定以降の経営環境の悪化に対する緊急対応が含まれています。
令和8年度診療報酬改定の4つの柱
> 参考:令和8年度診療報酬改定の概要【全体概要版】(PDF/厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001685766.pdf
健診業務に直接の変更はないが、無関係ではない
今回の診療報酬改定は、保険診療に対する点数体系の見直しです。特定健診や事業者健診・人間ドックといった健診業務そのものへの直接的な点数変更はありません。しかし、改定の方向性をよく読むと、健診に携わる医療機関にとって無関係とはいえない変化が含まれています。
生活習慣病管理料の見直し
今回の改定では、生活習慣病管理料(Ⅰ)(Ⅱ)の要件が強化されました。具体的には、糖尿病・脂質異常症・高血圧を主病とする患者に対し、必要な血液検査等を「少なくとも6か月に1回以上」実施することが要件化されます。また、糖尿病を主病とする患者については、眼科や歯科との連携を推進する仕組みも盛り込まれました。
この動きは、定期的な検査・モニタリングを診療の継続要件として位置づけるものです。健診で生活習慣病リスクが発見された受診者が、その後の外来診療へとつながる流れが重要性を増すことを意味しており、健診と外来を結ぶ情報の橋渡しがより求められるようになります。
医療DXの加速
医療DX推進体制整備加算・医療情報取得加算が廃止・統合され、マイナ保険証の活用、電子処方箋、電子カルテ情報共有サービスへの対応状況に応じて3段階で評価される「電子的診療情報連携体制整備加算」が新設されます。国として医療情報のデジタル連携を一層加速させる方針が、診療報酬の点数構造にも反映された形です。
健診領域においても、健診結果データをどのようにデジタルで管理し、受診者や外来診療側へ適切に届けるかという課題は、今後ますます重要な論点となるでしょう。
> 参考:令和8年度診療報酬改定説明資料等について(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_71068.html
「2040年」という視点が示す、予防医療の重要性
「2040年問題」の衝撃:支え手の激減と高齢者人口のピーク(推計グラフ)
厚生労働省の資料には、繰り返し「2040年頃を見据えて」という表現が登場します。2040年は、団塊ジュニア世代が65歳以上となり、高齢者人口が最大化する時期にあたります。医療需要のピークが予測される一方で、現役世代の減少による保険財政の圧迫も避けられません。
この現実に対して、今回の改定が示す方向性の一つが「治し、支える医療」への転換です。急性期の治療だけでなく、生活習慣病の重症化を防ぎ、できる限り健康な状態を保つことへの評価が厚くなる流れは、長期的に変わらないものといえます。
予防・早期発見という健診の役割は、この大きな方向性の中で、医療提供体制の一翼を担う位置づけとして引き続き重要です。点数改定の対象外であっても、健診が社会的に期待される機能は変わるどころか、高まる方向にあります。
健診の現場で今できること
診療報酬改定という制度変更への直接対応は、主として医師や医事担当者が中心となります。一方、健診担当スタッフとして意識しておきたいのは、健診結果の「出口」の整備です。
健診部門で注意すべき、診療報酬改定による影響
健診で把握した受診者の数値データや所見が、その後の受診勧奨・外来連携・継続フォローにスムーズにつながる仕組みがあるかどうか。この点は、医療DXが進む中でより問われるようになります。記録の正確性、情報の伝え方、受診勧奨の仕組みといった日常業務の質が、医療機関全体の継続的な健康管理機能を支えます。
テクノアでは、健診業務を担う医療機関向けにシステムの提供・サポートを行っています。制度の変化に伴う業務上の課題や、健診データ活用に関するご相談があれば、お気軽にお問い合わせください。
◼️◼️参考資料◼️◼️
- 厚生労働省保険局医療課「令和8年度診療報酬改定について【全体概要版】」(令和8年3月10日版)
- 令和8年度診療報酬改定について(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67729.html
- 令和8年度診療報酬改定説明資料等について(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_71068.html
よくある質問
Q1. 診療報酬改定は健診には関係ないのでは?
直接の点数変更という意味では、特定健診・事業者健診・人間ドックは今回の診療報酬改定の対象外です。ただし、生活習慣病管理の要件強化や医療DXの推進といった改定の方向性は、健診後の外来連携やデータのデジタル管理という観点で健診業務とも無関係ではありません。改定の全体像を把握しておくことは、医療機関の一員として有益です。
Q2. 6月施行と4月施行が混在していますが、健診の事務手続きへの影響はありますか?
薬価改定(4月施行)は健診業務に直接影響しません。診療報酬本体の6月施行については、施設基準の届出期間(令和8年5月7日〜6月1日必着)が外来診療側に発生します。健診部門として特段の届出が求められるわけではありませんが、医療機関全体の事務作業が集中する時期であることは把握しておくとよいでしょう。
Q3. 生活習慣病管理料の見直しで、健診後の流れは変わりますか?
血液検査等を「6か月に1回以上」実施することが外来での管理要件となることで、健診で異常値が検出された受診者への受診勧奨や、外来担当者との情報共有の精度が問われる場面が増える可能性があります。健診後の案内・フォローの仕組みを改めて確認しておくとよいでしょう。