コラム | 総合健診支援システム iD-Heart

あえて挑戦!テキストエディタだけで作る特定健診XML入門:仕様の深淵を覗き、システムの真価を知る

作成者: iD-Heartコラム担当|2025.10.1

本記事は、その「システムの魔法」をあえて解除し、テキストエディタという最小限の道具だけを使って、一からXMLデータを作成するという「挑戦」をテーマとします。

この挑戦の目的は、実際に業務で利用することではありません。
この困難なプロセスを体験することで、読者であるITエンジニア、プログラマー、緊急的にデータ構造を調査する必要がある医療機関の担当者の皆様に、特定健診データ構造に関する深い知識を提供するとともに、健診システムが提供する真の価値を改めて理解していただくことが目的です。

【重要:挑戦のための宣誓(免責事項)】 
この記事は、特定健診データの学習、研究、および仕様を理解することが目的であり実際の業務運用において、手作業によるXMLデータ作成は、規格ミスのリスクや工数の観点から、絶対に推奨いたしません
貴社・貴院の業務を守るためにも、手入力は学習用途に限定してください。

この記事を読み終える頃には、あなたは特定健診データ仕様のエキスパートになっているはずです。
そして同時に、自社システムの偉大さを確信するでしょう。

第1章:準備:深淵に挑むための地図と道具

この挑戦を成功させるには、入念な準備が必要です。
私たちは、公式の「地図」と、正確な「道具」を手にします。

1-1. 地図:公式ドキュメントという羅針盤

XML作成は、個人の裁量で行うものではなく、規格への忠実さがすべてです。必ず、以下の公式ドキュメントを参照し、最新のルールを確認してください。

最重要資料: 厚生労働省「電子的な標準様式第4期(2024年度~2029年度分)」
 特に、「特定健診情報ファイル仕様説明書」や「XML用特定健診項目情報」などが道しるべとなります。

1-2. 道具:推奨されるツール

XMLファイルは一般的なテキストファイルですが、文字コード(UTF-8)や構造を正確に扱うために、以下のツールを推奨します。

UTF-8対応のテキストエディタ: VSCode、Sublime Textなど。

1-3. 挑戦に用いる架空の受診者プロファイル

今回、この挑戦のために、以下の情報を持つ架空の受診者のXMLを作成します。

項目 備考
氏名 仮名 太郎  
生年月日 1970年1月1日  
性別 男性 性別コード: 1を使用
健診日 2024年10月1日  
腹囲 86.0 cm  
収縮期血圧 135 mmHg  
空腹時血糖 115 mg/dL  
喫煙歴 有り  
尿検査 実施せず notImpl属性の記述が必要

1-4. 【上級者向け】もう一つの挑戦状

この記事を読み進めて自信がついたら、ぜひこちらのプロファイルでも挑戦してみてください。性別が変わるだけで、いくつかの判定基準値が変わることに気づくはずです。

項目 備考
氏名 架空 花子  
生年月日 1980年4月15日  
性別 女性 性別コード: 2を使用
腹囲 91.0 cm 基準値超過
HDLコレステロール 38 mg/dL 基準値未満

この記事を読み終えたあなたなら、この人物のXMLがどうなるか、もう想像できますね。
ぜひご自身のテキストエディタで挑戦してみてください!

第2章:実践:XMLという名の難解な設計図を組み立てる

ここはこの記事の核心部分です。いよいよ、XMLの「手書き」に挑戦します。

Step 1: 全体の骨格を作る

XMLファイルは、XML宣言、ルート要素、ヘッダ情報(機関コード、健診日など)から構成されます。

<?xml version="1.0" encoding="UTF-8"?> 
<!-- ルート要素は資料に基づき定義する必要があります -->
<TOKUTEI_KENSHIN_DATA xmlns:xsi="http://www.w3.org/2001/XMLSchema-instance"> 
    <HEADER>
        <!-- 健診機関コード、提出日をYYYY-MM-DD形式で記述 -->
        <ORG_CD>1234567890</ORG_CD>
        <SUBMIT_DATE>2024-10-01</SUBMIT_DATE>
    </HEADER>
    <!-- 受診者データ(PERSON)がここに続きます -->
</TOKUTEI_KENSHIN_DATA>

Step 2: 受診者の情報を書き込む

PERSON要素内では、生年月日(YYYY-MM-DD形式)や性別コード(1, 2)など、厳格な形式とコード体系が求められます。

    <PERSON>
        <INSURER_NO>98765432</INSURER_NO> <!-- 保険者番号 -->
        <ID>A001</ID> <!-- 受診者ID -->
        <NAME>仮名 太郎</NAME>
        <BIRTH_DATE>1970-01-01</BIRTH_DATE>
        <SEX_CD>1</SEX_CD> <!-- 男性コード '1'を使用 -->
        <!-- ...その他の基本情報... -->
    </PERSON>

Step 3: 冒険の核心、健診結果を入力する(未実施の落とし穴)

健診結果は、問診票コードや検査結果コードに従って記述していきます。
特に、検査を実施しなかった場合の記述方法(notImpl属性など)がいかに重要で、忘れやすいかをここで強調します。
単に項目を省略するのではなく、notImpl属性を使用して「未実施」であることを明示しなければなりません。

        <!-- 検査結果の入力例 -->
        <EXAM_ITEM_VALUE ITEM_CD="1011" VALUE="86.0" UNIT_CD="CM" /> <!-- 腹囲 -->
        
        <!-- 未実施項目の記述:尿検査はnotImpl="1"で明示 [4] -->
        <EXAM_ITEM_VALUE ITEM_CD="4001" notImpl="1" />

Step 4: 最難関!階層化判定ロジック

特定健診XML作成における最大の試練は、各検査値からメタボ判定を行い、保健指導レベルを決定するロジックです。
これは、複数の検査値を組み合わせた複雑な条件分岐であり、手作業で行うのはまさに悪夢です。
例えば、そのロジックの一部を疑似コードで表現すると、このようになります。

// メタボ判定ロジック(あくまでイメージです)
// --- STEP1:腹囲とBMIで内臓脂肪リスクを判定 ---
IF (腹囲 >= 85 AND 性別 == '男性') OR (腹囲 >= 90 AND 性別 == '女性') THEN
    リスクカウント = 1
ELSE
    リスクカウント = 0
END IF

// --- STEP2:追加リスク項目をカウント ---
IF 空腹時血糖 >= 110 THEN リスクカウント = リスクカウント + 1
IF 中性脂肪 >= 150 OR HDLコレステロール < 40 THEN リスクカウント = リスクカウント + 1
IF 収縮期血圧 >= 130 OR 拡張期血圧 >= 85 THEN リスクカウント = リスクカウント + 1

// --- STEP3:リスクカウント数に応じて指導レベルを決定 ---
// このような条件分岐が、服薬歴や喫煙歴も加味して延々と続く...

この複雑なロジックを手作業で一つ一つ確認し、正しい指導レベルコードを導き出す困難さ、想像できるでしょうか?
これこそが、システムのありがたみを最も実感する瞬間です。

第3章:検証:作り上げた設計図に欠陥はないか?

手入力では、「タグの閉じ忘れ」「全角スペースの混入」「必須項目の漏れ」といった、典型的な失敗に陥りがちです。

【ここでクイズです!手入力の恐怖】
以下のXMLコードには、初心者が陥りがちな3つの間違いが隠されています。
あなたはすべて見つけられますか?

  <PERSON>
<INSURER_NO>98765432</INSURER_NO>
<ID> A001</ID> <!-- IDの前に怪しいスペースが... -->
<NAME>仮名 太郎 <!-- あれ?閉じてない? -->
<BIRTH_DATE>1970/01/01</BIRTH_DATE> <!-- 日付の形式はこれでいいんだっけ? -->
</PERSON>

正解は…

  1. <ID>タグ内の全角スペース:  (半角)ではなく (全角)が入っている可能性があります。
    プログラムはこれを認識できません。
  2. <NAME>タグの閉じ忘れ: </NAME>がありません。
  3. <BIRTH_DATE>の日付形式: YYYY-MM-DD形式が正しく、/は使えません。

いかがでしたか?このように、ほんのわずかなミスがデータ全体を無効にしてしまいます。

このチェック作業を人の目に頼るのではなく、機械的に行うのが「バリデーション(妥当性検証)」です。
XMLを公式のスキーマファイル(XSDファイル)と照合し、仕様を満たしているかを確認する作業であり、この検証を行うチェックツールの存在を知ることで、データ作成の難易度を改めて認識するでしょう。

まとめ:そして、あなたはシステムの偉大さを知る

特定健診XMLの手入力という「あえての挑戦」を通じて、私たちは単なるファイル形式ではなく、医療情報としての責任と厳格さを学びました。

この挑戦の結末は明確です。これまでの苦労を振り返り、「実務において、手入力は工数とミスの観点から決して現実的ではない」と結論付けます。

規格の複雑さ、結果判定ロジックの難解さ、そしてわずかなミスも許されない医療データの性質。この全ての複雑な作業を、瞬時に、かつミスなく正確に実行してくれるのが、私たちの提供する『健診システム』なのです。

実際に、弊社のシステムを導入いただいたお客様からは、「これまで丸一日かかっていたXMLの確認・修正作業が、わずか数分で完了するようになった」とのお声をいただいております。

この記事で感じた「複雑さ」は、そのまま「システムの価値」に他なりません。