コラム | 総合健診支援システム iD-Heart

協会けんぽ令和8年度健診体系大改革 〜医療機関が知るべき変更点と対応のポイント〜

作成者: iD-Heartコラム担当|2025.9.5

第1章:改訂内容 - 制度改正の5つの柱

本記事では、2025年9月1日の時点で公開されている資料を基にまとめています。
公開されている資料はこちらのURLから参照可能です。

健診体系の見直しについて(協会けんぽ 富山支部)
協会けんぽの中長期的な取り組みについて(本部運営会資料)

今回の健診体系見直しは、以下の5つの柱で構成されます。

1-1 人間ドック補助の実施

目的
健診の選択肢を拡大し、健康意識の向上と実施率向上を図ります。

対象者・補助額

  • 35歳以上の被保険者が対象

  • 定額25,000円の補助(総額が25,000円未満の場合はその総額)

  • 受診間隔の制限なし

検査項目の拡充
健保連人間ドック健診の基本項目と同一になります。

新たに追加される項目

  • 心拍数
  • C-反応性タンパク(CRP)
  • 血液型(ABO Rh)
  • 眼底検査

オプション項目

  • 前立腺がん検査(PSA)
  • 乳腺超音波検査

今後の予定
令和9年度から、被扶養者にも同等の内容で拡充予定です。

1-2 若年層健診の実施

背景と目的
就業により生活習慣が変化する若年層への早期介入を図ります。
現在の定期健康診断では一部検査項目の省略が認められており、被扶養者は40歳まで健診機会が限られているためです。

対象の拡大
従来の35歳以上に加え、20歳、25歳、30歳の被保険者も生活習慣病予防健診の対象になります。

検査項目
既存の生活習慣病予防健診から胃・大腸がん検診を除いた項目で実施されます。

今後の予定
令和9年度から被扶養者にも拡充予定です。

1-3 骨粗鬆症検診の実施

導入の背景
健康日本21(第三次)の目標指標に骨粗鬆症検診の受診率が追加されたことを受けて導入されます。

対象者 
40歳以上の偶数年齢の女性

実施方法 
原則として健診機関内で実施。自施設で実施できない場合は、再委託先の選定・確保が必要です。

1-4 被扶養者健診の拡充

目的 
家族も含めた加入者全体の健康意識醸成と受診率向上を図ります。

変更内容 
令和9年度から、被扶養者健診は被保険者と同等の内容に拡充されます。

重要な変更点

  • 加入種別による健診の差異が撤廃
  • 現行の特定健診の枠組みは継続
  • 費用決済・健診結果受領は情報提供サービス経由に変更(現行は社会保険診療報酬支払基金経由)

1-5 重症化予防対策の強化

受診勧奨の実施
「胸部X線検査」等で要精密検査・要治療と判断されながら、医療機関への受診が確認できない方に対して受診勧奨を実施します。

先行実施 
令和6年度に3支部(北海道・徳島・佐賀)で先行実施中です。

検査項目の追加 
令和8年度から、喀痰細胞診が肺がん検診項目として追加されます。

  • 対象:50歳以上で喫煙指数600以上の方

新たな健診体系 
令和8年度から、付加健診項目を一般健診と統合し、「節目健診」を新設されます。

第2章:医療機関に求められる変更内容

人間ドック補助実施機関には、制度の質確保のため以下の条件が求められます。

2-1 認証・資格要件

第三者認証の取得 以下のいずれかの認証取得が必要です:

  • 日本人間ドック・予防医療学会/日本病院会
  • 日本総合健診医学会
  • 全日本病院協会
  • 全国労働衛生団体連合会

新規申請機関への配慮 認定に一定期間を要することを考慮し、当面は申請書提出により認定取得に代えることが可能です。

2-2 体制整備要件

特定保健指導の実施体制

  • 健診当日の初回面談実施
  • 継続的支援から実績評価まで対応
  • 実施者:医師、保健師、管理栄養士、経験のある看護師など

検査・診察の適切性

  • 健団協基本検査項目の適切な実施
  • 医師による診察(胸部聴診、頸部・腹部触診など)の確実な実施

2-3 精度管理・専門性

検査の精度管理

  • 熟練した要員の確保
  • 十分な設備・機器
  • 手順(マニュアル)の整備
  • 内部・外部精度管理の実施

読影・判定体制 
専門的知識を有する医師による読影・判定が必要な項目:

  • X線画像
  • 腹部超音波検査
  • 心電図
  • 眼底写真
  • マンモグラフィ検査・乳腺超音波検査
  • 病理細胞診

ダブルチェック体制 
X線画像とマンモグラフィ検査では医師のダブルチェック体制が必要です。

2-4 フォローアップ・管理体制

健診後のフォローアップ

  • 医療連携室またはそれに相当する仕組み
  • フォローアップマニュアルの整備
  • 悪性疾患検査の要精検者への対応体制
  • 生活習慣病関連の要治療指示者への対応体制

結果管理

  • 健診結果の最低5年保管
  • 経年比較できるシステムの整備
  • 管理に必要な人員・機器の確保

2-5 その他の要件

スタッフ配置

  • 医師
  • 臨床検査技師・診療放射線技師
  • 保健師・看護師・管理栄養士
  • 事務職員

安全・環境管理

  • 個人情報保護体制
  • 医療事故対応手順
  • 感染防止対策
  • 防災マニュアル
  • 診療と健診のスペース区別

第3章:システム変更・改修の必要事項

3-1 医療DXインフラの活用

ビッグデータ活用 
若年期からの健診結果を経年的に保有し、ビッグデータ分析により保健事業を推進します。

3-2 業務システムの変更

健診結果受領・費用決済の効率化

  • 情報提供サービス経由での直接やり取り
  • 被扶養者健診も現行の社会保険診療報酬支払基金経由から変更
  • 人間ドック基本項目のみの結果受領

システム仕様書の公開
システムベンダー向けにデータファイル仕様書を公開。

3-3 新システム機能

電子申請システム 
令和8年1月サービスイン予定

  • 傷病手当金、高額療養費等の自動化
  • 保険者機能強化アクションプランに基づく業務改革

その他の機能充実

  • 特定保健指導アプリケーションの機能充実
  • コミュニケーションツール刷新によるペーパレス化
  • システム構造のシンプル化
  • システム基盤統合
  • セキュリティ・災害対応強化

 

参考情報:

• 健診施設機能評価 (日本人間ドック・予防医療学会、日本病院会):
    ◦ https://www.kinouhyouka.jp/portal/top/
• 優良総合健診施設 (日本総合健診医学会):
    ◦ https://jhep.jp/jhep/sisetu/nst01.jsp
• 健康保険組合連合会・UAゼンセン人間ドック認定 (全日本病院協会):
    ◦ https://www.ajha.or.jp/hms/medicalcheckup/
• 労働衛生サービス機能評価 (全国労働衛生団体連合会):
    ◦ https://www.zeneiren.or.jp/service/

まとめ

協会けんぽによる今回の健診体系見直しは、単なる制度変更を超えた健康管理の根本的転換を意味しています。

従来の「病気になってから対応する」アプローチから、「若いうちから予防に取り組む」アプローチへ。
35歳以上中心の健診体系から、20代からの継続的な健康管理へ。
この方針転換により、約3,900万人の加入者とその家族が、生涯にわたって健康を維持できる環境が整備されます。

医療機関にとって
第三者認証の取得や保健指導体制の整備など、新たな要件への対応が求められます。
しかし同時に、より包括的な健康サービスを提供する機会でもあります。

システム事業者にとって
医療DXインフラとの連携や新たなデータ仕様への対応が必要となりますが、これは医療業界のデジタル化を推進する重要な契機となるでしょう。

そして加入者にとって
従来よりも早い段階から、より充実した健診を受けられる環境が提供されます。
特に20代からの健診開始と人間ドック補助により、健康への意識と行動が大きく変わることが期待されます。

令和8年度から本格的に開始される280億円規模のこの改革は、日本の予防医療の新たなスタンダードを築く取り組みです。
医療費の適正化という喫緊の課題に対し、「予防に勝る治療なし」という原点に立ち返った、協会けんぽの決断と言えるでしょう。